2017年12月27日水曜日

子宮頸がんワクチン はたともこ理論のウソ(その4)

せっかく子宮頸がんワクチンについて記事を書いたので、子宮頸がんワクチンのリスクについてもう少し詳しく解説しておきます。ネットの記事を見るとどうもリスクを過少に評価している方が多いようなので、実際のリスクがどれぐらいあるのか参考まで。

コウノドリ 14巻より

死者数3,000人は低リスクか?
子宮頸がんワクチンをネットで検索すると、死者数は年間3,000人程度だから大したリスクはないといった主張をよく目にします。死者3,000人なら子宮頸がんの死亡率は成人女子が5,000万人いるとして0.006%しかないというものです。これは明らかな間違いです。

上記はあくまで1年間の死者数をもとにしたデータです。翌年以降、生きている限り毎年リスクは繰り返されます。ですから正しいリスクは一生涯でどれぐらいあるかを算出しなければいけません。女性の平均寿命が約87歳ということですから、ここでは17から87歳までの70年間でリスクを計算してみましょう。

子宮頸がんで死亡する確率
ここからはざっくりとした計算です。数値は国立がん研究センターから引用しています。子宮頸がんの死者数が年間約3,000人、女性の寿命を87歳、17歳以上の女性が5,000万人いるとして、17歳から87歳までに子宮頸がんで死亡する確率を計算してみましょう。

〇女性が子宮頸がんで死亡する確率
70年 × 3,000人 = 21万人 ÷ 5,000万人 = 0.42%

正しいリスクを計算すると、1,000人中42人が子宮頸がんで亡くなることになります。

子宮頸がんになる確率
続けて、女性が子宮頸がんになるリスクについても見てみましょう。子宮頸がん患者が年間約10,000人ということですから、

70年 × 10,000人 = 70万人 ÷ 5,000万人 = 1.4%

日本人女性は一生涯で、1,000人中14人が子宮頸がんに罹ることになります。

100人に7人が高度異形成に

100人のうち7人が高度異形成に

切除手術が必要になる高度異形成については患者数のデータが見つかりませんでした。高度異形成の20%は5年以内に頸癌になるとされているので、そこから逆算すると高度異形成の患者数は年間約5万人(10,000人÷20%)いることになります。

高度異形成は1,000人中70人が罹るという計算です。100人に7人の割合ですから結構発病率の高い病気ではないでしょうか。1クラス(18~20人)に1人が罹る病気という計算になります。

ついでに、中度異形成の罹患者がどれぐらいいるかも計算してみます。産科婦人科学会のデータでは中度異形成の20〜30%が高度異形成に移行するとされています。中度異形成の罹患者はおよそ16〜25万人いることになります。日本人女性の22〜35%が生涯一度は中度異形成になっている計算です。

ちなみに、子宮頸癌手術患者の癌再発率は7.8%で、70万人中5.5万人が癌を再発している計算になります。こうやって1つづつ計算していくと、子宮頸がんは女性にとって決してリスクが低い病気とはいえないことがわかります。

2016年6月24日金曜日

子宮頸がんワクチン はたともこ理論のウソ(その3)

子宮頸がんワクチンは必要ありませんから引用してみましょう。

【結論】検診により、HPVの感染、持続感染、軽度・中等度・高度異形成が発見されれば、適切な治療によって前がん病変の段階で完治する。すなわち、定期的な併用検診(細胞診+HPV・DNA検査)によって、子宮頸がんは予防できる

はたともこ理論」では、上記のケースは「無事完治、子宮頸がんは予防できました」ということになりますが、果たしてそうでしょうか?この理論には大きな穴があります。ここで少し整理しておきましょう。

HPV感染、異形成の治療について
子宮頸がん検診で、HPV感染や、軽度~中等度異形成が見つかっても基本的に治療はしません。逆を言えば、外科手術以外に有効な治療方法がないのです。

ですから、自然治癒する可能性がある初期~中期の段階では、切除手術は行わず経過観察となります。その後、半年に1度のペースで定期的に検査をしていくことになります。いくら検査で病変が見つかっても大きくなるまでは放置しておくしかないということです。

検診のみの予防のリスク
上記のような特徴を理解した上で、子宮頸がんの予防を、はたともこ氏の言うように子宮頸がんの予防を検診だけに限定することで次のようなリスクが生じます。

①精神的負担
HPV感染や異形成がみつかり、経過観察となれば患者の精神的負担は低くはありません。将来がんになるかもしれないという不安は、HPVウイルスの感染が陰性と出るまで続きます。また、円錐手術で異形成を切除しても再発の可能性があることから安心はできません。

②検査の見落とし
細胞診検査は、医師が目視で確認することから見落としも多いのが実際です。いきなり高度異形成やがん化したものが出てくるということもあります。細胞診で異常が発見できる確率は6~8割程度と言われています。2~4割の確率で見落としが生じるということを意味します。

③手術のリスク
持続感染、軽度・中等度・高度異形成、上皮内がんが発見されれば、適切な治療によって、ほぼ100%治癒し、子宮頸がんは予防できる、ということです。(P29)

はたともこ理論では、手術について上記のように記述しています。文中では、一切触れられていませんが、外科手術には当然リスクがあります。麻酔や注射の影響、執刀ミス、また、子宮を部分的に切除すれば術後、流産・早産のリスクは上昇しますし、全摘出すれば子供は埋めなくなりますが、そのようなリスクについてこの本では一切触れず、「ほぼ100%治癒する」で片づけているのです。

そもそも、検査でがんが発見されても、「適切な治療によって、ほぼ100%治癒」するのであれば、どうして年間3000人近い人が子宮頸がんで亡くなっているのでしょうか

ワクチンでは数十万人に一人の確率で(因果関係不明な)有害事象が起きていることを問題にしながら、手術のリスクについては一切触れず、ほぼ100%治癒するから大丈夫と言い切る姿勢には疑問を感じます。

子宮頸がんワクチン はたともこ理論のウソ(その2)

前回の続きです。はたともこ氏が国会で取り上げた沖縄の調査ですが、データの出所がみつかりましたので少し検討してみましょう。

沖縄県のHPV感染率調査
調査対象は1994-1995年沖縄県で子宮頸がん検診を受診した一般女性4,078人。HPV感染の有無と何型に感染したのかとをPCR法という検査方法で調べたようです。それによると、調査対象者の平均年齢は52.4歳、そのうち20代は275人(6.7%)しかいません。20年以上前の沖縄での調査で、かつ平均年齢が異様に高いというあたりがデータとして有用なのかどうかは疑問ですが、結果は前回で少し触れたとおり。16,18型の感染率は0.7%となっています。

注目すべき点としては、16、18型を含む発癌性HPVの検出率。他の年齢群では概ね10%前後であるのに対して、20代では20%と他の年齢の倍以上になっている点です。

20代の年齢が極端に高いということには、2つの可能性があります。ひとつは、20代では性交渉が多いからHPV感染率が高くなるというもの。この考え方はなんとなくしっくりきますね。若い人のほうがセックスに対する敷居が低く、不特定多数と性交渉を持つので、HPVに感染する確率が高いということです。年をとればセックスの回数も減るし、相手も限定されてくるので感染リスクが低くなり感染率が低いという考え方です。高齢者のほうが貞操観念が強いため感染率が低くなるという考え方もありますね。

もうひとつは、そもそも20代のサンプル数が他の年齢層と比べて少ないので、正確な数字が出てこないということ。母数275人で感染率20%なら、感染者数は55人。この数値ならまあ問題ないかな。

東京の調査では20代の高リスク群感染率が27%超
若年層のほうが感染率が高くなっているということについては、他の研究でも同じような傾向が出ています。2006年から2007年に東京都でおこなわれた調査。こちらは母数383件で、10代が16名20代が222名30代が105名40代が17名など。沖縄の調査よりは平均年齢が低く参考になるかなといった感じです。

東京の調査では、高リスク群の検出率が10代で50%20代で27.8%30代で16%40代で17%と沖縄より高い数値を示しているのが注目すべき点。沖縄の調査より10年後ということを考慮すれば、若年層になるにつれ貞操観が低下し、不特定多数とセックスする傾向にあり、HPVの感染率が上がっているといえるのかもしれません。若年層での感染率が上がっているという厚労省の報告とも一致します。

同様の調査は、北陸地方でも行われており、15-19歳の半数以上に、20-24歳の36%に高リスク群 HPV感染が認められたという報告があることから、全国的に感染率が高くなっている傾向にあることがわかります。

いずれにせよ、沖縄、東京、北陸のデータをみると昔に比べ、若い世代で高リスクを含めたHPVの感染率が上がっていることは事実でしょう。感染率が低いからワクチンは不要というはたともこ氏の主張は、古いデータをもとにしたもので実情とはちょっと違うということがわかりますね。

2016年5月24日火曜日

子宮頸がんワクチン はたともこ理論のウソ(その1)

子宮頸がんワクチンは必要ありませんなる書籍が出ています。元参院議員のはたともこという方が書いた本。副題は「定期的な併用検診と適切な治療で予防できます」と記されています。ちょっと問題ありな内容なので検討してみましょう。

子宮頸がんワクチン有効の可能性は非常に低い〔はたともこ理論1〕
日本人一般女性のHPV16型の感染率は0.5%、18型は0.2%。感染しても90%は自然排出、持続感染して前がん病変の軽度異形成になっても90%は自然治癒。したがって16型・18型の中等度、高度異形成になる人は、0.7%X0.1X0.1=0.007% 10万人に7人ということになる。

感染率0.7%は少ない数字か?
前橋レポートのときと同様に、公平を期すため著者の採用した数字で検討してみます。

ここでは、出産可能な年齢ということで18歳から42歳のケースで考えてみましょう。はた氏の挙げた数字をもとに計算しただけなので、これが正しい(実際の)数字というわけではありませんのでご注意を。

まず、女性の人口が1歳あたり50万人と仮定して18-42歳で1,250万人です。HPV16型18型の感染率が合わせて0.7%(はた氏書籍に掲載の数字)です。

感染者は1,250万人x0.7%87,500人。この数字だけをみると「少ないなあ」という感じでしょうか?
この数字に「はたともこ理論」の計算式(x0.1x0.1)を当てはめると、中等度、高度異形成になる人は1,250万人中875人(0.007%)ということになります。

なんだたった875人かと思った人は騙されています。この875人というのはあくまで単年の数字でしかありませんから、実際の確率(18歳の女性が42歳になるまでに感染する確率)とは計算が違ってきます。

著書によると、感染しても2年間90%の人はウイルスが自然排出されるということですから、感染者87,500人のうち、90%78,750人2年後にはウイルスがなくなっています。しかし、年度ごとの感染率は常に一定になるので、2年後には新たに78,750人の感染者が発生していることになります。

2年後には新たに87,500人X90%=78,750人の感染者が出てくるということは、1年間で39,375人の感染者が現れるということになります。これに25年を掛けると、正しくは1,250万人のうち約100万人(8%)HPV1618型ウイルスに感染していることになります。

よって、18歳の女性が42歳になるまでの間に、HPV1618型が原因で中等度、高度異形成になるのは1,250万人中1万人となります。パーセンテージでいえば0.08%です。これでも少ないと感じますか?では、言い方を変えてみましょう。1,250人に1人の確率で中等度、高度異形成になるということになりますが、この確率は果たして低いのでしょうか?

ちなみに、著者が引用した感染率の元データについて調べてみたところ、1993-1995年に沖縄県で実施された調査で、20年以上前とデータとしてはかなり古い。さらに調査対象者の平均年齢が52.4歳と高齢で若年層が少なく、日本にまだ貞操という概念があった世代のデータである点は注意が必要。HPVが性行為で感染することを考慮すると、はた氏が論拠としてあげているHPV感染率0.7%という数字は、実態とはかなり乖離がありそうなことを付け加えてもいいでしょう。


2011年11月18日金曜日

前橋レポートの問題点(予防接種の有無で医療費に変化はないのか)

予防接種に否定的な考え方をもつ方々がよく持ち出すのが、「予防接種をしてもしなくても、医療費は変わらないことが前橋レポートで証明されている」といった話です。本当にそうなのでしょうか。前橋レポートの「国保診療費から見たインフルエンザ流行」についてを見てみましょう。レポートの概略から。

非接種地域と接種地域に分けて,診療件数等を比較。流行前期と流行期の間に有意の変動は認められない。かつ非接種地域と接種地域の間にも差は見られない。以上の結果から,学童に対するインフルエンザワクチンの集団接種をやるかやらないかは,医療費の面においても大きな影響を与えていないことが分かった。インフルエンザワクチン接種を中止しても,医療費が余計に掛かる心配はなさそうである。

要するに、「予防接種をしても医療費縮減には繋がっていない。すなわち予防接種は効果がない」ということを言いたいようです。この主張が本当かどうかを検証してみましょう。

まずは、健康保険制度のおさらい。大きく分けて2種類あります。ひとつは「健康保険(健保)」と呼ばれるもので、一般のサラリーマンらが加入する「協会けんぽ」、大手企業等の「組合健保」、公務員等が加入する「共済組合」などがあります。

もうひとつが、「国民健康保険(国保)」。自営業者や学生、無職、高齢者らで構成する「国民健康保険」などです。ざっくりとしたイメージですが、サラリーマン世帯は健康保険自営業者・高齢者等は国民健康保険と思ってもらえばわかりやすいですね。

では、前橋レポートで調査対象となった学童はいったいどの保険の対象者でしょうか。はい、お気づきのとおり、大半はサラリーマンのお子さん、すなわち「健康保険」の加入者の扶養親族になるわけです。もちろん、自営業者のお子さんなどは国保になりますが、比率的にどちらが多いかは明らかですね。

さて、前橋レポートの主張は、「予防接種をしてもしなくても医療費に違いはない」ということですが、ここで大きな疑問がひとつ。当時、国保の加入者は大半が高齢者でした。もちろん、後期高齢者医療制度はなかったので、60歳以上のほとんどが国保。また、高齢者医療費はタダ同然で非常に受診しやすい状況でした。国保に自営業者の子供が占める割合はわずか。にもかかわらず、学童の医療費等を調べるのに国保の数字を使うことに妥当性があるのかということです。しかし、レポートにはこのように記述されます。

しかしこの結果について,われわれが意外に思ったことが二つある。その一つは,特に小児科の診療所などでは,インフルエンザの流行期に一致して,年の内で一番忙しい時期を迎えるのが常である。ところがこの統計で,例えば受診件数で見ると,比が1.0 を僅かに上回るに過ぎない。すなわち受診者全体として見れば,たいした数ではないと言うことである。

インフルエンザの流行期に小児科の受診者数が増えていないから、インフルエンザはたいした病気ではないということが言いたいのでしょうか。しかし、使っているのは国保のデータ。受診者全体=大半が高齢者であるのですから、小児科への影響が僅かしか現れないのは当然でしょう。とても学童の受診状況の実態を表した数字とは言えません。

研究者ならこの程度の矛盾にはすぐに気づきそうなものですが。。。はたして、このことに気づかなかったのでしょうか。それとも意図的に医療費への影響が出にくい国保の数字を使っているのでしょうか。と思ったらこんな記述が。


もっとも保険制度には,外にも政府管掌社会保険や,各種共済組合・企業別健康保険組合の保険などがあり,それぞれ被保険者・家族の年齢的,身体的,社会・経済的条件にはある程度の差異があり,それぞれインフルエンザ流行に際して,どのような影響を受けているのか,興味のあるところだが,今のところわれわれの手には負いかねる。


前橋レポートの調査対象に問題があることは認識されているようです。もっとも、「ある程度の差」しかないという認識のようですが。それにしても、「われわれの手には負いかねる」って研究者の姿勢としてどうなんでしょうかね。そしてこう結論づけます。

いずれにせよ,インフルエンザワクチン接種を中止しても,医療費が余計に掛かる心配はなさそうである。

大半が高齢者の国保を対象にした調査結果をもって、予防接種の有無で学童の医療費に変化はないと結論づけるには、あまりに実態を反映していない調査であったことは間違いありません。ちなみに、予防接種と医療費の関係については、米国での調査でも医療費縮減に効果があることが認められています。

2011年11月5日土曜日

「カンガエルーネット管理者が重要と考えるポイント」を検証

せっかくですから、「前橋レポート」の全文を掲載しているカンガエルーネットについても検証してみましょう。以下は、「カンガエルーネット管理者が重要と考えるポイント」(http://www.kangaeroo.net/D-maebashi-F-view-r-R-no-200408_admin_point.html)に対する疑問点です。


カンガエルーネット管理者が重要と考えるポイントより(黒字は筆者の意見)
  • 前橋レポートは、インフルエンザ予防接種の「有効性」を否定しているわけではありません。
    →まず、注意しておくこと。このHPの管理者は一見、中立を装っているように見えますが、HPの内容を拝見する限り、反対派寄りのかなり偏った考え方をお持ちの方々が運営をされているようです。以下、客観的・科学的なスタンスで内容を吟味しましょう。

  • インフルエンザ集団予防接種は、もともと個人防衛の効果が低いことを承知のうえで、社会防衛のために導入された。しかし、大人がウイルスの媒体になっている可能性が高いことを勘案すれば、学童を対象とした集団防衛策は再検討すべきだ。
    →なぜ「大人がウイルスの媒体になっている可能性が高い」と断言できるのでしょうか?一般的な感覚からすれば、保育園や学校がインフルエンザ感染拡大の媒体となっていると考えるのではないでしょうか。また、「個人防衛の効果が低い」と断定していますが、その根拠は何でしょうか。

  • 全国の流行状況と比べても、予防接種を中止した前橋市での流行状況に特別な変化が現れたとはいえない。近隣のワクチン接種地域と比べても、患者数、医療費、超過死亡いずれの基準でも特別な変化は起きなかった。
    →患者数については、インフルエンザ『様』疾患で、正確な数字ではありません。医療費は国民健康保険のみの数字、超過死亡についても独自の数字を使うなど客観性に乏しく、「特別な変化は起きなかった」と断定するだけの根拠には欠けていると考えます。

  • 自然感染による免疫は、年数を経るにしたがい徐々に減衰はするものの、驚くほど良く保持されていることが分かった。
  • 自然感染していない場合、次の流行時に感染する確率が高くなる。一方、一度自然感染すると、たとえウイルスが変異したとしても、その後の感染率は大きく低下する。自然感染による次回流行の防御率は、1年後80%、2年後70%、3年後40~60%と計算された。小学校6年間でみると、平均1~3回の同型ウイルスの感染を経験することになる。
  • 1年に限ってみれば「予防接種は有効」という結果が出ても、数年間を通してみると、予防接種をしてもしなくても感染率は変わらなくなってしまう(ホスキンスのパラドックス)。
  • インフルエンザ感染を防ぐ決定的な要因は、過去の自然感染歴であって、ワクチンの効果は一過性のものにすぎないと考えるべきだ。
    →前橋調査の結果からも、自然感染よりワクチン接種のほうが「発病率」が低くなるという結果が出ています。この調査における「感染」とは、HI抗体価の上昇を意味するもので、病欠や発熱などを伴う「発病」とは異なります。調査結果をみると、既往によりその後の「感染」は確かに低下していますが、「発病」についてはさほど低下していないようです。仮に自然感染に発病予防の効果があるとしても、そもそも、重症化しやすい低年齢のときにインフルエンザに感染することを良しと考えているのでしょうか?

  • ワクチン接種地域と前橋市(非接種地域)を比較すると、集団レベルの予防接種の有効率は最大でも30%程度と計算された。
    →前橋レポートは、地域間の集団予防接種の有無で、インフルエンザの発症率にどの程度の違いがあるかを調べるもので、予防接種の有効率を調べることを目的としたものではありません。調査は、37度以上の発熱で連続2日以上の欠席をすべてインフルエンザ患者とみなすなど、アウトカムの設定が不適切で、正確な有効率を測定するには無理があります。また、接種率50%前後の2市を加えて比較している時点で妥当性がありません。この調査結果をもって、予防接種の有効率を断定するのは無理があります。

  • インフルエンザの感染では、上気道(のど)粘膜の免疫が重要な役割を担うが、予防接種ではこの免疫を高めることはできない。
    →上気道粘膜はあくまで感染経路でしかありません。前橋レポートでは血中HI抗体価の上昇をもって感染と定義付けていますが、その定義付けは間違いなのでしょうか。

  • インフルエンザ予防接種は、ブースター効果しか期待できず、自然感染していない人には効果がないかもしれない。そうであれば、予防接種にブースター効果を期待する人は、自然感染していることを暗黙の前提としていることになるため、自己矛盾を起こすことになる。
    →「ブースター効果しか期待できない」というのは、あくまでレポートを書いた人物による仮定の話です。事実ではありません。

  • 症状軽減を目的として予防接種を行うと、感染力を持ったまま出席する児童が多くなる結果、逆にインフルエンザ流行を拡大させる要因になるかもしれない。
    →症状軽減が悪いことであるかのような意見です。ひどいこじ付けですね。とにかく予防接種を悪者にしたいようです。

  • 予防接種によってウイルス排出が抑止されるかどうかに関しては明確な答えはない。しかし、予防接種をした人からウイルスが分離された例は報告されている。
    →前段を否定するために、まったく関係のない後段の話を持ち出しています。これは非科学的な思考で、俗に言う「詭弁」です。

  • 感染しても発症しない(不顕性感染)児童は全体の20%と非常に高い割合を占めていた。不顕性感染の児童からもウイルスが分離されていることから、不顕性感染者がウイルス伝播に大きな役割を果たしていると思われる。
    →であれば、むしろ予防接種は必要だと思いますが。予防接種で不顕性感染も防げるのではないでしょうか。

  • 他の様々な論文を調べても、インフルエンザ予防接種の有効率は決して高くはない。また、インフルエンザ予防接種の効果を調べた論文には不完全なものが多い。サンプルにバイアスが存在すると、「インフルエンザ予防接種は、30%の有効率で風邪を防御した」といった結論が出てしまう。
    →予防接種の有効性を検証した多くの論文は、発熱など「インフルエンザ様症状」という単なる風邪を母集団とした調査が多く、ワクチンの有効性を正確に検証したものとは言えません。インフルエンザの予防接種は、この管理者がカンガエルような「風邪」を予防するものではありませんし、不完全な論文をもとに素人がこのような結論を出すのはどうなんでしょう。そして、「前橋レポート」も不完全なもののひとつです。

  • 以上のように、インフルエンザ予防接種は、多少は「有効」かもしれないが、長期的にみれば「有益」とはいえない。
    →この一文に、カンガエルーネット管理者の予防接種に対する考えが表されています。予防接種の有効性については「かもしれない」と否定的なスタンスをとる一方で、有益性については、「有益とはいえない」とはっきりと否定しています。かなり偏った考え方ですね。おそらく、自然感染による免疫獲得のほうが感染予防に効果があると言いたいのでしょう。しかし、重症化率の高い低年齢期に、わざわざ子どもをインフルエンザに感染させて免疫を獲得したいと考える親がどれほどいるのでしょうか?机上の空論です。背景には、やはり予防接種反対という思想があると言わざるを得ません。客観的・科学的に予防接種について考えているとはいえませんね。

2011年10月31日月曜日

前橋レポートの問題点(HI抗体価調査の欠点)

予防接種に否定的な考えをもつ方々の主張でよく聞かれるのが、「自然感染すれば抗体価が上昇し、翌年以降インフルエンザに罹りにくくなる。だから、予防接種などする必要はなく、どんどんインフルエンザに罹ればいい」というものです。果たして、その主張はどの程度実態を表しているのでしょうか。前橋レポートのHI抗体価調査からみてみます。

①HI抗体価によって見た小学校のインフルエンザ流行
前橋レポートでは、前橋市内の非接種校の児童を対象としてHI抗体価の大規模調査をおこないました。

1981 年度から,「指定校」5 校の2 年生約600人を対象に,毎年流行を挾む11 月と5 月に,すなわち6 か月ごとに年2 回の採血を行い,HI 抗体価を測定した。


要するに、予防接種を行わないことで抗体価にどのような変化があらわれるかを調べたのです。前橋レポートの説明でよく使われる、「5年間に及んだ調査」というのはこのHI抗体価調査の部分です。非接種地域と非接種地域との比較は2年間しか行っていないので間違えないように。

調査では、小2児童に対して計10回の採血(注射)が行われました。報告では「採血後のトラブルは一例も認められなかった」となっていますが、小学生に6,000回の注射(採血)を行って1例も副反応など起こらなかったとは、よほど医師の腕が良かったのでしょう。

余談ですが、インフルエンザの予防接種では、採血後2日以内に発熱があった場合など、予防接種との関連性の有無に関わらず、「予防接種後副反応」として報告されます。例えば、接種翌日にたまたま風邪を引いて発熱したようなケースでも、副反応として報告しなければいけません。報告は厚労省がとりまとめHPで公表しています。必要以上に厳格です。もちろん副反応報告があったからといって、予防接種の副作用と因果関係があるわけではありません。

②既往により感染率は明らかに低下する
話が逸れましたが、このように児童たちの犠牲と、関係者の労力、多額の費用をかけておこなった調査の結果とはどのようなものだったのでしょうか。5年の歳月をかけただけあってレポートもかなりのボリュームです。結論を要約すると、大きく2点に別れます。

まず、「いずれの流行においても,前回流行に感染した者の感染率は,しなかった者に比べて明らかに低かった」ということ。一度、インフルエンザに罹患すると翌年以降、感染率が大きく低下し、その効果は数年続くだろうということです。

そして、もうひとつ。「もしも抗体価<16 倍および16 倍の者を抗体を保有しない者,32 倍以上の者を抗体保有者とすれば,欠席率は前者にあっては67.0%,後者では55.5%,発熱率は前者は49.1%にたいして後者は38.0%であった。すなわち,既往があって感染した者の欠席率および発熱率は,既往のない者に比較していずれも約10%低いという結果であった」ということです。

ここで疑問が湧きます。「感染率」明らかに低下するのに、「欠席率・発熱率」既往なしの者と比較して10ポイント程度しか変わらないという結果です。普通に考えれば、「感染率」が明らかに低下しているのであれば、「欠席率」「発熱率」も同様に大きく低下するのではないかと考えますが。

③前橋レポートにおける感染の定義
ポイントは、「感染率」「欠席率・発熱率」とは一致しないという点です。これを理解するには、前橋レポートにおける感染の定義について知っておく必要があります。前橋レポートでは、「感染の有無の判定は既述のごとく,流行前後の抗体価において抗体価が4 倍以上の上昇を見た者を「感染あり」,2 倍以下の者は「感染なし」として集計した」としています。あくまで、抗体価の変化で、感染の有無を判定しているようです。

一般人が「感染が明らかに低かった」と聞くと、インフルエンザに罹って熱や咳などの症状が現れる確率が低下したことを想像しますが、、ここでの「感染」とはあくまで抗体価の上昇を示すもので、「発病」という概念とは異なるようです。ですから、「感染率」が大きく低下するからといって、実際に病気になる確率が大きく低下するわけではありません。結果からは、自然感染により抗体価が上昇しても、「欠席率・発熱率に」は大きな影響を与えていないということがわかったのです。

④感染率が下がっても欠席率・発熱率が下がらない原因
では、なぜ、抗体価からみると、既往によって翌年以降の「感染率」の大きな低下(抗体価の上昇)がおきているのに、「欠席率・発熱率」はさほど下がらないのでしょうか。

考えられる理由は2つです。1つは、HI抗体価の上昇自体がインフルエンザの症状予防にはあまり関係がないかもしれないということ。もう1つは、前橋レポートの「欠席率・発熱率」の定義づけでは、風邪など他の病気も含まれるため、インフルエンザの実態を正確に反映していないのではないかということです。おそらく後者が原因ではないでしょうか。

ちなみに、この調査における欠席者は、「流行期間内に一回でも欠席したことのある者については,インフルエンザにより欠席したものと見なして算出した」となっており、発熱者は「38度以上の発熱」をした者とされています。一般的な風邪や、ノロなど発熱を伴う感染性胃腸炎などでも、すべてインフルエンザ患者とみなされます。

⑤自然罹患より予防接種のほうが効果あり
では、自然罹患によって発病予防効果はどれぐらい上がるのでしょうか。抗体を保有しない者と保有する者とで有効率を計算すると、欠席率では17.2%発熱率では22.6%となります。「小児はインフルエンザに自然に感染することによって,確固とした免疫を身に付けてゆくことが分かった」と結論づける割にはずいぶんと低い数字のような気がします。


効果が低いとされる予防接種と比較してみましょう。両者の定義づけが異なるため正確な比較はできませんが、接種・非接種地域比較の際にでてきた「罹患率」[①37度以上の発熱があって連続2日以上欠席した者、または、②発熱は不明であるが連続3日以上欠席した者]は比較的条件が近いようですから、この数字で比べてみます。

84年度のデータで見ましょう。接種率80%の高崎市についてです。罹患率は、2回接種群38.3%に対して、未接種群53.9%となっていますから、有効率は28.9%です。同様に85年度のデータでは有効率は39.8%です。どうやら自然罹患によってできる免疫よりも予防接種をしたほうが効果があるようです。

なお、ここで計算した予防接種の有効率は、アウトカムに風邪などによる欠席も含めたもので、実際のインフルエンザワクチンの有効率(70-90%といわれています)とは大きく異なりますのでご注意ください。

⑥まとめ
前橋レポートにおけるHI抗体価調査では、自然感染により以後の感染率が大きく低下するとともに、発病率もある程度低下するということがわかりました。しかし、「感染率」とはHI抗体価の上昇を意味し、発病率を大きく下げているわけではないということも明らかになっています。また、ワクチン接種者との比較では、自然感染よりもワクチン接種のほうが発病予防効果が高いということも判明しました。

しかし、レポートではワクチンの有効性について、「欠席者率から見たワクチン有効率はたかだか20~30%であり」と効果について否定的な考えを示しています。一方で、抗体価による「感染率」という指標を使うことで、自然感染による発病予防効果を意図的に高く評価し、「小児はインフルエンザに自然に感染することによって,確固とした免疫を身に付けてゆくことが分かった」と結論付けています。実際には、自然感染による発病予防効果は17%-22%程度で予防接種より低い結果が出ています。

もちろん、自然感染することでインフルエンザに罹りにくくなるであろうことは感覚的にわかります。にもかかわらず、調査における発病予防効果が思ったほど高くなかった理由としては、やはり、前橋レポートにおけるインフルエンザ患者の定義づけに問題があったのだろうということです。

さて、自然罹患により免疫ができるという考えには異論はありませんが、そもそも抗体ができるからといって、重症化しやすい幼少期にわざわざインフルエンザに感染する危険を冒す必要があるのでしょうか。前橋レポートでは、自然感染で抗体ができるので予防接種は不要であると結論づけていますが、幼少期にインフルエンザに罹ることを良しと思っているのでしょうか。予防接種で罹患する確率を下げることができるのであれば、接種すべきだと思いますが。